「 2015年12月 」一覧

 第5章 親友

「今日は遅かったわね~」

 
住まいの近くにある定食屋「松也」で親友の美智子と合流した。

 

「松也」は3年ほど前に駅の裏路地にオープンした、元漁師のご主人が営むお店で、かずみも美智子も開店当初から通っている。

 

 

いつも新鮮な魚介がそろっていて、特に度々メニューに加えられる〔おすすめ!旬の魚定食〕がどの季節もほっぺが落ちるほど美味しく仕上がっている。

 

夜10時まで営業しているのも、独身者にはありがたい。

 

かずみと美智子は週に3日はここで合流し、食事をしている。

 
「大将!旬の魚定食、お願いしますー!」
かずみはコートを脱ぎながら席に座った。

 

「うちの会社、来年から新卒採用を増やす方針なんだけど、その新人研修を任されちゃってね。いわゆる教育係ってやつ。でいろいろ調べてたら少し遅くなっちゃった。」

 

「お疲れ様~。気が付けば、かずみももう立派な先輩なんだね。
新人研修ってたいへんそうね~。わたしは中途だから、初日に配属部署の先輩がついてくれて、社内の各部署あいさつ回りと、日常業務の説明してくれて、ハイ!スタート!って感じだったわ。

 

 

その後は日々聞きながら覚えてきたけど、新卒の場合は、社内研修と社外研修やってから、ようやく業務開始みたい。」「わたしも今年から新人さんサポートする様に言われてるから、業務のあれこれは教えてるけど、あいさつとかマナーとか最低限のことは研修で覚えてきてくれているから、何にも言うことなし!なにしろ若さっていいわよね!アハハハハ」

 

美智子の前には焼酎のボトルが置いてあり、既に晩酌タイムが始まっていたようだった。

 

「社外研修・・・Off-JTかぁ・・・」

 

「うん、それそれ!、私も一度受けてみたいわぁ、アハハハハ」

 

美智子は3年前に大手広告会社を退職し、中小の製作会社に転職した。いくらか給料は減ってしまったようだが、今の方が断然のびのびしているように見える。

 

幼い時から発想力が豊だった美智子は、中学校の学習発表会の演劇台本を書き上げたことがった。つるとかめのお話を面白く描き、最終的に感動する物語だった。

 

同じクラスだったかずみは、美智子からの希望でそのナレーション役を務めた。

 

放課後に皆で発表の成功を喜んでいた時と、同じ笑顔をした美智子がここにいる。
かずみはお茶を一口飲むと、なんだか今日の疲れから解放されたような気持ちになった。

 

「はい、お待ち!おすすめ定食だよ。本日はカレイの煮つけ―!」


第4章 調べる

 

自分のデスクに戻るやいなや、〔新人教育 研修・・・〕

 

パソコンに打ち込み、新人教育とは何ぞや、を調べ始めた。

 

「ふむふむ、新人教育のやり方はたくさんあるんだな」

 

「社内の先輩が教えるのはOJTで、社外の研修などはOff-JTって言うのか・・・」

 

 

パソコンに向かってぶつぶつ独り言をいっていると、隣の席の後輩の優子ちゃんがマスカラのフサフサした目を向けて聞いてきた。

 

「かずみさん一人でなにしゃべってるんですか?」

 

「うん。ちょっとね。いま常務から、来年の新卒入社のOJTを担当するように言われたから、まず新人教育関連のことを調べてるの」

 

「えー!新人教育って大変そうですね、ただでさえかずみさんみんなからいつも、あれこれ質問されているのにー!あっ!私もその一人ですけどぉ!確かにかずみさんがいなかったら、いま私何にも出来ていないかも!」

 

「あまり、頑張りすぎないでくださいね。手伝えることあったら言ってくださいね」

 

「でも、今日はこれから合コンなのでお先に失礼しまーす!」

 

「おつかれさまでーす」

 

優子ちゃんはお茶目で愛嬌があり、かずみにとっては妹みたいな存在だ。

 

忙しかったりで、社内がピリピリしている時はちょうどいい感じで和ませてくれている。

 

「はい、お疲れさまー」

 

 

かずみはそれからしばらくパソコンとにらめっこを続け、会社を出るころには、時計の針がいつもより一時間ほど遅い時刻を指していた。


(注)
この小説はフィクションです。
実在の人物や企業とは一切関係ありません。